日本でのツアーをおえて

  • 1996.12.14 Saturday
  • 14:45
 by 藤井郷子

12月12日 ニューヨークJFK空港に着くと、やはり東京よりはるかに寒い。 日本でのツアーの疲れ、12時間のフライトの疲れをしばし忘れる様な身の引き締ま る気温だ。

11月19日、日本に帰国してからの3週間程の今回の日本ツアーは、当初予想して いたよりはるかに過酷なスケジュールだった。 共演していただいたミュージシャンの方々、企画していただいた方々、現場で働いて いただいたスタッフの方々、そしてもちろんライブに足を運んで頂いた皆さんのおか げで、予想以上に成功したツアーとする事ができた。

1985年に初めて渡米した時より、もう20回近く日本とアメリカを往復している が、今回初めて気付いた事がある。両地におけるピアノの鳴り方の違いだ。今までも 、なんとなく感じてはいたが、今回は、顕著にわかった。 ピアノの音は、弾いた後だんだん弱く消えてゆく減衰系の音だが、その消え方が日本 とアメリカではまるで違う。日本でピアノを弾くと、アメリカで弾くより音がのびな い、つまりすぐに音が消えてしまう様な気がする。ピアノは原則的には、音を出した 後はその音をコントロールする事はできない訳だから、音がのびようが消えようが演 奏に影響しない様に思えるが、自分の出した音が常にフィードバックして創造のきっ かけともなる即興演奏となるとそうもいかない。それに、これは、「音色」だけでは なく、音と音の間、つまり「間」にも大きな影響を及ぼす。 今回は帰国翌日、実家のピアノを弾いた時からこの違いに慣れるまで2週間もかかっ てしまった。幸運にも演奏会場ではPAの方々に大変気持ち良くモニターにバックし てもらえたので、実際のライブの時にはそれ程悩まされずにすんだ。 この違いは、空気の湿気のせいだと思う。日本、アメリカ、ヨーロッパ、南アジアそ れぞれ音の響き方、聞こえ方がまるで違う。車の音、クラクションの音、飛行機の音 、サイレンの音...例えば、ボストンやニューヨークで聞くそれは、日本で聞くよ りはるかに遠くまで響いている様な気がする。また音だけでなく空の高さまで視覚的 に違う様だ。アメリカの空は日本より高く見える。それもやはり湿気のせいではない だろうか。

今、朝6時、時差ボケの状態で書いている。聞こえてくる車の音はやはりアメリカの それだ。日本に比べると、ずっと広い所にいる様に感じられる。ドライなかんじ、自 分のまわりにある空間を感じさせられ、孤独感すらある。音の聞こえ方は、精神状態 にまで影響する。時差ボケはさらにそれを助長する様だ。気候風土の違いが様々な文 化の違いを生んできた事が推測できる。
冬時間のニューヨーク朝6時は、まだ真暗だ。7時半位に、ようやく昼間の明るさになる。 遠くで聞こえる車の音、部屋のスチームの音を聞きながら、とりとめもなく書いてし まった。
最後に今回の日本ツアーに力をかして下さった皆さんどうもありがとうございました。

1998年夏、ニューヨークレポート

  • 1998.07.22 Wednesday
  • 14:03
by藤井郷子

5月5日に成田よりニューヨークに発った。昨年(1997年)に帰国してから、8 ヵ月ぶりのニューヨークだ。目的はレコーディングとRouletteとTexaco New York Ja zz Festivalでの演奏。

あしかけ1ヵ月半近くなる滞在期間、友人のアパートをサブレットしたり泊めてもら ったりと、結局ありがたい事にホテルには一泊もしなかった。サブレットとは、アパ ート等のまた借り、また貸しの事でアメリカでは学生等がよく使う手だ。 JFK空港よりブルックリンのジョージ・コリガンのアパートに向かう。彼は若手のメ インストリームジャズピアニストだ。彼とは面識はないが、友人の紹介で、ツァー中 の彼のアパートに3週間程滞在した。ジョージはピアニストなのでピアノがあるので はと少し期待していたが、部屋にはエレクトリックピアノしか置いていなかった。日 本では考えられないが、ニューヨークではピアニストが自宅にピアノを持っていると は限らない。私も持っていなかった。1年前そうしていた様に、練習はブルックリン コンサバトリーという地域の音楽学校で、時間貸しのピアノの部屋を借りる事とする。 到着して翌日の6日にピアノトリオのリハーサル、7日にはそのレコーディングとい うハードスケジュールだ。メンバーはベースのマーク・ドレッサーとドラムのジム・ ブラック。私にとっては気心がしれていて信頼できるふたりだ。マーク・ドレッサー はヨーロッパツァーから戻ったばかり、ジム・ブラックはウエストコーストのツァー から戻ったその日のリハーサルで全員時差ボケ状態。それでも事前に送った譜面を完 璧にこなしてくれる。このトリオでのレコーディングは昨年に続いて2回目だが、リ ハーサルが必要ないのではと思う様な音をいつも出してくれる。レコーディングした スタジオはブルックリンにあるSystems Two。私が一番気にいっているスタジオだ。 ニューヨークスタインウエイの素晴しいピアノ、響きの良い部屋、それにエンジニア 、スタッフの気配りの良い働きぶり。このスタジオで録音した物をもう4枚CDにした 。トランペットの田村のソロCDをいれれば、5枚になる。

7日の丸一日のレコーディングのあとは夜9時からトランペットの田村とRouletteで デュオライブと、これまたハードスケジュール。今春のシリーズには日本からの佐藤 まさ彦氏、ニューヨーク在住のトロンボーンの河野雅彦氏、それに私達と日本人が4 人出演していた。Rouletteはいわゆるジャズクラブとは違う。ニューヨーク州と市の 援助、それにあらゆる基金で運営されている非営利の団体で1年に2回、春と秋の各 々2ヶ月間の週3日から4日位のペースで実験的な音楽を主体に公演を行っている。 West Broadwayにあるが看板もないし2階のせいもあって、はじめて来る人はなかな かみつけられない。にも関わらず、たくさんの人に来て頂いた。聴衆がたくさんいて くれれば、もう演奏は成功したも同然だ。聴衆からのエネルギーは、私達がやってい る様な即興主体の音楽には大きな影響をもたらす。その晩、自分なりに満足のいく演 奏が出来たのも足を運んでくれた人々のお陰だ。

Rouletteでの演奏を終えた後は次のレコーディングまでしばらく余裕があるので、旧 友に会いにボストンに足をのばす。友人の車でニューヨークからボストンまで4時間 半。ボストンは落ち着いていてきれいな街だ。それにシーフードが格段においしい。 ボストンではCast of charactersという友人がやっているバンド、それにちょうどボ ストンにきていたClusone TrioとIva Bittovaを聴く事ができた。益子高明氏は在米 20年程になるパーカッションプレーヤーで、東ヨーロッパやアフリカ、南米の民族 音楽にも造詣が深く、自身で無声映画とのインプロヴィザーションのバンドも主宰す る。彼もメンバーとなっているCast of charactersはロシア人のピアニスト、Igor T kachenko、ドイツ人のヴァイオリンニスト、Johannes Ammon、イタリア人のアコーデ ィオニスト、Roberto Cassan、アメリカ人のディジリドゥプレーヤー、Daniel Orlan sky、イギリス生まれの中国人のベースプレーヤー、Jane Wang、カナダ人のイングリ ッシュホルンプレーヤー、Janet Underhillで構成されるインターナショナルなバン ドだ。世界の民族音楽を伝統的な形で、またアレンジした形で、加えてオリジナル作 品も演奏する。民族音楽がジャズやロックにも形を変えて浸透していて、身近に聴け るのもニューヨークやボストンの良いところだ。ボストン市立図書館で行われたその 日のコンサートは母の日という事もあり、親子連れ、家族連れがたくさんいた。内容 は他の演奏家やバンドによる現代音楽や中国の民族音楽も含まれる充実したプログラ ムで、手応えのあるコンサートだった。母の日に子供連れで現代音楽を聴くなんてい うのも、残念ながら日本ではなかなかありえない事だろう。マサチューセッツ工科大 学で行われたClusone TrioとIva Bittovaのコンサートにはボストンのミュージシャ ンや評論家等知った顔がたくさん聴きにきていた。Iva Bittovaはヴァイオリンを弾 きながらヴォイスも巧みに使い、本人がmy own folk musicとよぶ東ヨーロッパ民族 音楽とオリジナルのフュージョンミュージックを演奏する。Clusone Trioは、アルト サックスとクラリネットのMichael Moore、チェロのErnst Reiseger、ドラムスとパ ーカッションのHan Benninkで構成される。メンバーそれぞれが、実に個性的にフリ ーインプロヴァイズをする。ジャズと現代音楽のミックスの様なその音楽はHan Benn inkの徹底した遊び心と動きの大きなプレーのせいもあり、聴衆を始終、惹き付けて いた。

ボストンからニューヨークにはアムトラックで戻る。駅が街の中にあるため、5時間 かかっても飛行機よりは楽だ。
ビッグバンドのリハーサルは、ヨーロッパツアーの帰り、空港から直接駆けつけるド ラムのAaron Alexanderを待ちながらはじまった。このバンドも昨年レコーディング したメンバーとほぼ同じ、気心のしれた仲間だ。音楽的にも人間的にも信頼している メンバーなのでリハーサルは順調に進む。

リハーサル後はニッティングファクトリーとAlt Coffeeをはしごする。Knitの地下、 Alterknit theaterで、昨年ボストンからニューヨークに越してきたKenta Nagaiとボ ストンのJane Wang, それにデンマーク人の舞踏家によるセッションを見る。(聴く?)私自身、舞踏との コラボレーションを行っているため興味深いとりあわせだ。Kentaは、Astor place等 でストリートでも演奏していてファンを増やしている。彼のソロは誠実でいてダイナ ミック、とても好感のもてる物だった。Knitから友人の車でイーストヴィレッジにあ るAlt Coffeeにむかう。トロンボーンのCurtis Hasselbringのバンドだ。ドラムはJo hn Hollenbeck、ベースはStomu Takeishi、アルトサックスとバスクラがOscar Norie ga、バイブがMatt Moran。Stomu,Oscar,Curtisは昼間のリハーサルでも一緒だった私 のビッグバンドのメンバーでもある。Curtisのコンポジションは緻密に計算された上 に、彼の性格が良くでている様な親しみやすさと軽快さをあわせもっている。2年近 く、彼のバンドが好きで、何回か演奏を聴きにいっているが、バンドの演奏にもコン ポジションにも以前より磨きがかかりタイトになっていた。とちゅうトランペットの Dave Douglasも顔をだしていた。

ニューヨークを訪問する旅行者たちはブルーノートやヴィレッジヴァンガード等の有 名ジャズクラブに、有名ミュージシャンを聴きにいく。私も10年前はそうしていた 。ところが、まずその手のクラブはすごく高い。だから滅多に行けない。とてもじゃ ないが毎晩なんて行けない。その上、私の好みの音楽をそういうクラブではなかなか 聴けない。という事で、最近はJazz Clubとは呼べないような小さなカフェにばかり 行く。Alt Coffeeもそんな場所のひとつだ。ニューヨークでも東京でも無名でも素晴 しいミュージシャンはたくさんいる。情報誌で知っている名前をみつけていくよりも 、知らない名前をみつけていく方が、リスクはあるが新鮮な驚きと出合いに満ちている。

ビッグバンドのレコーディングはまたSystems Twoで行う。ソロ、トリオ、ビッグバ ンド等、いろいろな編成で演奏活動をしているが、ビッグバンドのレコーディングは とても楽しい。緊張を忘れる位楽しめる。レコーディング後はメンバーのStomu Take ishi, Curtis Hasselbring, Chris Speedも参加しているトランペットのCoung Vuの バンドをイーストヴィレッジの新しいクラブTonicに聴きに行く。ドラムはトリオで レコーディングしたJim Black。Coungの音楽は、実に知的でいてワイルドな側面を持 つ。『これからの音楽』をはっきりと感じさせる。この日もDave Douglasやピアノの Myra Melfordが顔を出していた。Paul Bleyの紹介でMyraに 出会ってからもう3年が 経つ。彼女は日本での知名度は低いが、ニューヨークでは作曲家、リーダー、ピアニ ストとして注目を集めている。10月には来日という事で、私も今から楽しみだ。 開店したばかりのTonicはAlt Coffeeのオーナーがはじめた店だ。まだリカーライセ ンスももっていない為アルコール類が出せない。それでもたくさんの人が、良質の音 楽を求めてやってくる。今夏、TonicではJohn Zornが主宰するThe New Music Series at Tonicというフェスティバルがある。6月下旬から8月中旬まで毎週水曜日から日 曜日まで行われるそのシリーズは、スケジュールを見ただけでゾクゾクする様なミュ ージシャンが名を連ねている。このフェスティバルを事前に知っていれば、これに日 程を合わせたかった位魅力的な内容だ。

トリオのレコーディング、ビッグバンドのレコーディング、Rouletteでの演奏は終わ ったが、今回のニューヨークでのもうひとつの目的、ニッティングファクトリーが行 うTexaco New York Jazz Festivalでの演奏が残っている。今年は6月1日から14 日まで、JVCのフェスティバルと時期をずらして行われた。

田村夏樹は6月8日にWest BroadwayにあるIndependenceでトランペットソロ演奏を 行った。今春Leo RecordsからソロCD 『A Song For Jyaki』がリリースされたばかり 。8月8日には新宿ピットインにてそのリリースコンサートも行う。彼はトランペッ トの他、ニューヨークチャイナタウンで$1で買ったピンクのピコピコハンマー、ハ ンガリーの友人からのおみやげのデンデンダイコ、ブルックリンのおもちゃ屋で買っ たスズとともに独自の空間を作る。フェスティバルの期間のみ演奏がはいる比較的わ かりにくい場所なのに、真剣に耳を傾けてくれる人達が集まってくれた。その個性的 な世界に惹き付けられる様に店の従業員達も客席の後ろに集まっていた。他の場所で 演奏を終えたばかりのChris Speed, Jim Blackも顔を出してくれた。ニューヨークの ミュージシャン達はまめに人の演奏を聴きに行く。新しい音楽と人との出会いは、こ の街ではとても重要だ。今回のフェスティバルでブラスでソロ演奏を行ったのは、田 村の他にはトロンボーンのRobin Eubanksだけだった。

6月9日は、私が同じくWest BroadwayにあるNo Mooreでピアノトリオで演奏した。 メンバーはベースのStomu TakeishiとドラムスのJim Black。アメリカのJazzのWebsite、 Jazz Central Stationのニュースのサイト の6月19日号にこのコンサートに来て頂いた、評論家 のDrew Wheelerの記事は載せて頂いている。また同じサイトに田村と私のインタビュ ーも載せて頂いている。この日のコンサートも、たくさんの人にいらして頂いて私と しては内容も充実して満足のいく物だった。

私と田村はこのFestival出演に先立ってWKCRというFMステーションにゲスト出演した 。私達のCDをかけてもらったりインタビューに答えたりという内容の1時間番組で、 私たちの前はMark Dresserが出演していた。番組のパーソナリティー、Ted Pankenの 音楽に対する真摯な情熱の感じられる番組で、私たちもとても楽しい時をもつ事がで きた。

6月1日から14日まで、Festivalの間、できるだけ多くの演奏に足を運ぶ様にした。 足を運んだコンサートの中で印象に残ったのは、Paul Bley, Paul Motian,Gary Peac ockのトリオと、Henry ThreadgillのSociety Situation Dance Bandだった。私にと っては師でもあるPaul Bleyとは1年半ぶりの再会だった。彼等3人の演奏は本当の 意味での自由な物で、その円熟した表現は他の出演バンドとの次元の差こそ感じさせ た。力まずリラックスしていて、それでいて始終、緊張感がある。不自然な展開はま るでなく全てが必然性をもち、それでいてどの一瞬も驚きに満ちている。

Henry Threadgillのバンドは昨年同様、このフェスティバルの中で一番人気となった 。昨年のMakin’ a moveという少編成バンドもすごかったが、今年のSociety Situat ion Dance Bandという大所帯のバンドも本当にすごかった。ニューヨークでのコンサ ートは、聴衆が黒人か白人かで、その日の演奏者がいずれであるか大抵わかる。Henr y Threadgillのバンドには、黒人も白人も聴きにくる。聴衆の中にたくさんのMusici anがいるのもその特徴だ。残念ながら日本ではあまり知られていないが、Henry Thre adgillは今世界的に注目されているミュージシャンだ。彼のバンドには日本人ベーシ ストのStomu Takeishiがいる。彼のベースとJ.T.Lewisのドラムスはバンドの中でと ても重要な役割を担っている。変幻自在なグルーブとその特徴あるハーモニーの流れ が、Henry Threadgillの音楽の特徴だ。本当にどうしてこんなに良いのだろう、、、 ?!こんな素晴しいMusicianは、日本でももっと紹介されてほしい。それと同時に日 本の素晴しいバンドも、どんどん海外で紹介されればいいのにと思う。

今回の8ヶ月ぶりのニューヨークは、私にとってはニューヨークのエネルギーを再確 認して、その自由さを思い出す、リフレッシュメントとなった。そして1ヶ月半ぶり の東京も、私にとってはとても元気で魅力に満ちた場所と感じられた。
 

「1999年夏トロント」

  • 2000.01.15 Saturday
  • 12:05
 by 藤井郷子

 1999年の夏、国際交流基金の招きでトロント・ドゥモリエ・ダウンタウンフェス ティバルに出演した。
 日本で、カナダのジャズフェスティバルといえばモントリオー ルが有名だが、モントリオールと同じタバコ会社のドゥモリエがスポンサーでついて いるトロントのこのフェスティバルもかなり大規模で内容も幅広く充実したものだっ た。毎年、6月下旬から7月上旬にかけて10日間開催される。今年は6月25日か ら7月4日まで。トロントダウンタウンに点在する10カ所の会場で昼過ぎから夜中 まで。その後のセッションは朝4時まで続くという盛り上がりかただった。横浜プロ ムナードジャズ同様、トロントでも一般市民のボランティアがスタッフとして大活躍 だ。出演者の空港、ホテル、会場間の送迎、会場でのTシャツやCDの販売、チケット の販売や会場整理等。なかには毎年そのために会社の休暇をとる人までいる。無報酬 で生き生きと働く人々の姿は実に印象的だ。

 タバコ会社はテレビ等での宣伝が禁止されているため、ジャズフェスティバル等の文 化事業のスポンサーになるケースが多かったが、カナダでは昨年それも禁止という法 案が通ったため、時間の問題でドゥモリエもトロントやモントリオールのフェスティ バルのスポンサーをおりるらしい。今後、どのようにフェスティバルを運営できるの か関係者達が懸念していた。

 私は6月26日、フェスティバル2日目にトロントの老舗ジャズクラブ、モントリオ ール・ビストロにソロで出演した。昨年は日本から梅津和時さんとレナード衛藤さん が出演したが、今年は日本からの出演は私ひとりだった。出演の前日、25日にトロ ント入りする予定だったのにニューヨークからのフライトがキャンセルとなり当日2 6日入りとなってしまった。25日にフライトキャンセルの件を空港からフェスティ バルボランティア本部に電話で伝えた。その対応の良さは、現地入りする前からフェ スティバルに参加出来る期待を高めてくれた。26日朝一番のフライトでトロントに 到着。迎えにきてくれたボランティアの人の車でホテルに入る。トロントコロニーホ テルのフロントには、日本人女性が働いていて彼女のおとうさんは阿佐ヶ谷のジャズ フェスティバルの主催者のひとりであるとの事。世間いや世界は狭い。会場のモント リオール・ビストロには客入れ前の写真撮影という事情もあり開場30分ほど前に入 る。今回のボーナスは、時を同じくしてカナダ政府の招きでトロントにいらしたクラ シック演奏家、また世界中のホールの写真でも名高い木之下晃氏に撮影して頂ける事 だ。写真に対する氏の熱意はレンズを通して驚くほどこちらに伝わってくる。表現者 として、その姿勢には感心させられた。演奏中に演奏者と聴衆の間にはばかるような 事も決してしないプロのマナーはさすがである。

 国際交流基金のパブリシティー、それにカナダのジャズ雑誌コーダで何回か記事にし て頂いている事もあって、200名近く、立ち見もでるほどの盛会となった。カナダ で演奏するのは初めて、しかもソロとあって私自身とても楽しみにしていた。演奏を はじめてまず驚いたのが聴衆の質だ。陸続きなのにアメリカの聴衆とは全く違う。む しろ日本の聴衆に近い。とても静かで礼儀正しく、最後まで演奏者に対するリスペク トと暖かさを感じさせてくれた。

 トロントにはネット上で友人になったドラマーのスティッチ・ウインストン以外に知 人はいないと思っていたのに、ニューヨーク在住時のヴォイストレーニングの先生、 それにニューヨークで活躍している友人のヴァイブ奏者、マット・モランの彼女がか けつけてくれた。日本総領事夫妻も大のジャズ好きという事で、本当に楽しんで頂け たようで、私としては大満足のカナダデビューとなった。

 29日までのトロントの滞在期間中、できるだけたくさんのコンサートに足を運んだ 。その中で色々な意味で心にのこるいくつかのコンサートについて書いてみよう。 26日のコンサートの後に国際交流基金のパーティーに出席、その後は屋外のテント 会場でのアーネスティン・アンダーソンのコンサートに行く。70歳を過ぎていると はとても思えない歌唱、そして艶やかさ。JazzというよりはR&B。徹底的に場を盛り 上げて楽しませるところは、さすがベテランのエンタテイナー。この会場にも日本総 領事夫妻はそろっていらしていた。残念ながら時差ボケの私は前半でホテルにひきあ げた。トロントコロニーホテルのバーも会場となっていて、たくさんの人たちが音楽 を楽しんでいた。全ての会場での演奏が終了後、ここでは毎夜というか毎朝4時くら いまでジャムセッションがおこなわれていた。

 翌日27日は、昼からの屋外フリーコンサートでフェスティバルのアーティストディ レクターでもあるジム・ギャロウエイのスイングバンドを楽しむ。スイングはここ数 年若い人たちの間でダンスミュージックとして楽しまれている。ここトロントにもそ んなクラブがたくさんあって、週末ともなると大変な賑わいらしい。時折、雨の降る ような天候のせいもありダンスをする人はなく、腰掛けて体を揺らしている年輩のス イングファンが多かった。本当に楽しそうに聴いている姿は、ほほえましくさえあっ た。

 ニューヨークや東京でも聞けそうなビッグネームよりはなるべく地元のmusicianを聴 くように心がけた。28日は朝からトロントの友人、ドラムのスティッチとギターの ジェフと録音の為スタジオにこもる。彼らとはポール・ブレイを通して知り合った。 スティッチのmodern surfaceというバンドは昨年(1999年)オランダのBUZZレコ ードからPaul Bleyをゲストに迎えCDをリリースしている。レコーディングはやたら に楽しくて、結局90分のテープを作ってしまった。カナダのmusicianは予想以上に レベルが高くて、その耳の良さと反応の早さには驚かされた。

録音が終わってから、またコンサートに駆けつけた。その晩は私が大好きなmusician のひとりでもあるUri CaineとDon Byronのduoがオンタリオ湖畔のハーバーフロント センターで行われた。Hotelからとりあえずタクシーで行ったが、帰りの足が不安に なるようになる街のはずれだ。まあ、後のことは考えずに会場に向かう。Uri Caine と途中で出会い、いきなり楽屋に行く。彼らとは初対面だが、ボランティアの人たち の紹介ですぐ打ち解けた上、私のニューヨークでのコンサートに必要なテナーサック ス奏者の電話番号までたくさんもらってしまった。ピアニストはほとんど癖で鍵盤が 見える位置の席をとる。別に鍵盤や手が見えてもどうという事はないのだが。その日 もだれも座らないようなピアノの椅子の後ろに陣取った。はじまる直前にすぐとなり にかけ込んできた若い男性がいた。間違いなくピアニストだ。

演奏はデューク・エリントンやスティービー・ワンダーの聞き慣れた曲を素晴らしい センスと技術で密度の高い音楽に仕上げる極上のduoだった。申し分ない満足のいく コンサートだった。終了後となりの若い「ピアニスト」に話しかけてみる。Bostonの ハーバード大学で作曲を専攻後、今はニューヨークのニューヨークユニバーシティー の大学院で舞台音楽の作曲を専攻しているという。本人はコンテンポラリークラシカ ル音楽の作曲家だが、大のジャズファンとのこと。しかし、なぜわざわざトロントに ?聞いてみると、ハリーコニックジュニアのツアーの仕事でカナダを回っているとこ ろらしい。ここではホントに面白い話を聞けた。なんでもハリーコニックジュニアの バックのビッグバンドのメンバーは全てコンピューターのモニターを譜面台のように してそのモニターに写る譜面を演奏するらしい。ハリーコニックジュニア氏、それが カッコイイと思っているとの事。そのかわり、ビッグバンドの人数分のコンピュータ ーとモニターをツアーで持ち歩く事になる。もちろんそんな経費は何でもないのだろ うが。彼の仕事は、コンピューターの記譜のソフトに楽譜を入力する仕事らしい。コ ンピューターは便利という事だけで使われるとは限らないという事だ。
 帰りはホテルまで彼の友人に送ってもらう。タクシーなんてまわりにはなくて、いっ たいどうやって戻るつもりだったの?とあきれられた。

誰も知人もいないし、ソロでの演奏だしで、きっと孤独な旅になると思っていたトロ ントは毎日出会いのある楽しい旅になった。帰りの日の朝、ボランティア本部にあい さつによる。来年もまた来てね、と言われ、本当にまた来たいなあと思うほど素晴ら しい旅だった。

ヨーロッパどたばた日記

  • 2000.11.07 Tuesday
  • 23:16
 by 田村夏樹

11月7日

*成田パーキングのおじさん
いつもの事ながら出発直前まで荷造りができない我々にとって、成田の個人パーキン グは有り難い。 あの重いトランクを持って駅の階段を昇ったり降りたりなんて考えただけでゾッとす る。 電車より多少睡眠時間は少なくなるが今回も車で行くことになった。少し渋滞もあっ たがほぼ予定の時間に到着。受付のおじいさん、性格なのか歯が抜けてるのかフガフ ガと何を言ってるのかよく判らない。ターミナルに向かう車のドライバーのおじさん 、「エアーラインはどこ?」「ああオランダ航空ね」そして独り言のように「シンガ ポール航空はこないだ落っこったんだよな、へっへっへーー」おいおい頼むよ今から 飛ぼうとしてる人間が後ろにいるんだよ。まったく悪気はなさそうなんだけど。

*KLMはうまい
マイレッジの関係でいつもノースウェストを利用しているが、僕はノースの食事が( 何かの香辛料)ダメで、成田で京樽の寿司を買って乗り込む事が多い。ヨーロッパに 行く時は提携会社のKLMオランダ航空になるので 逆に食事が楽しみだ。パンは温めてから出してくれるし、サラダのドレッシングもお いしい。デザートも適度な甘さで、もちろんメインの料理も機内食としてはいける。 経済的に余裕があったらニューヨークに行く時もヨーロッパ回りで行きたいものだ。

*猫と同居
夜の10時頃ハンガリーのブダペストに到着。一緒に演奏するアルトサックスのユー ディットとテナーサックスのジョルトが出迎えてくれ、車で、自室を提供し自分は実 家に寝泊まりしてくれるヴァイオリンのアダムのアパートに向かった。アダムの部屋 にはトッピーとポンチという雌猫が二尾いて、彼女たちのおかげで旅の疲れが随分と 癒された。まあ夜中に起こされる事も何度かあったが。


ヨーロッパどたばた日記

  • 2000.11.08 Wednesday
  • 23:17
 by 田村夏樹

11月8日

*パンがうまい
昨夜アダムとジョルトがここがいいと教えてくれたすぐ近くのスーパーに朝のパンを 買いに行った。ほんとに小さなスーパーだけど、焼きたてのパンが10種類ぐらい置 いてある。適当に3個選んで部屋にもどり、日本から持参した旅行用ドリップコーヒ ーを入れ、早速朝食にする。住んでる人間がうまいというだけあって、ほんとにうま い。噛めば噛む程あじが出てくるというやつだ。そういえば昔バークリーに行ってた 頃、ヨーロッパから来ていたやつが、アメリカのパンは最低だと言ってたのを思い出 した。こんなうまいのを毎日食ってりゃあ当然そう思うだろうと納得がいった。

*日本の女の子
ブダペストからウイーンへは鉄道で行くので当日重い荷物を持ってあっちかなこっち かなとうろうろしたくなかったのでリハーサルの前にその駅を下見しに行った。路面 電車(トラム)とバスを乗り継ぎ到着。ジプシーの多さに驚く。インフォメーション でパンフレットなどを見て帰ろうとしたとき、日本人の様な女の子が入ってきたので 声をかけるとはたして日本を3ヶ月前に出て、ヨーロッパをあちこち回っていると言 う。何とかツアーでお決まりのコースを全部世話してもらって回って見えるヨーロッ パと彼女の様に全て自分で現地の人と接触し、しかも出来るだけ安くあげてなるべく 多くの所を自分の足で見て回って見えてくるヨーロッパ、その差は歴然たるものがあ ると思う。彼女を見ていてなにか羨ましい様な誇らしい様な気持ちになった。

ヨーロッパどたばた日記

  • 2000.11.09 Thursday
  • 23:18
 by 田村夏樹

11月9日

*ロドン
リハが終わって、ヴイオラのアダムがちょっと部屋に寄りたいと言うので彼の車で送 ってもらった。その車、なんとロシア製のロドンというそうだ。かなり年数がたって いそうだったが、日本じゃ滅多にお目にかかれないと思う。ちなみに僕は今まで見た 事がない。なかなか軽快にガタガタとよく走った。しかしロドンなんて名前、まるで ミサイルのようじゃないですか。

ヨーロッパどたばた日記

  • 2000.11.10 Friday
  • 23:19
 by 田村夏樹

11月10日

*マーブルルーム
さてブタペストでのコンサート当日、ユーディットの家で遅い昼食をいただいてから (彼女のお母さんはほんとに料理が上手)会場へ向かった。ハンガリアン・ラジオ・ コンサートホールというから日本だとNHKに相当する。中に入って驚いた。天井は高 いし床も壁も全て大理石、シャンデリアもすごい。トイレも立派。これラジオ局じゃ なくて迎賓館なんじゃないの?てな感じで見て回っているとユーディットが「入り口 で言われたんだけど、外国人はこの部屋と控え室以外立ち入ってはいけないの」ひえ ー!なにそれ?と言うと、社会主義時代の習慣が今もいきてるという返事。思わぬと ころで異国情緒?を味わう。コンサートも良かったし、持っていったCDもほとんど売 れてしまい大成功でした。しかしアルトサックスのユーディットはハンガリーで唯一 バークリーを卒業したミュージシャンで日本でいえば秋吉敏子さんにあたるかも。も っとも音楽の種類がユーディットの方が一般受けしにくいフリーっぽいものをやって いるが。

*打ち上げ3000円
コンサートも無事終了し、メンバー全員で打ち上げしようということになり近くのチ ャイニーズレストランへ行った。6人でさんざん飲み食いしてさて勘定はいろんな事 で世話になってしまったうちが持とうという事で、レシートを見たら、日本円にして なんと約3千円にしかならない。驚くやら嬉しいやら。後で聞いたら教師の平均月収 が約1万2千円だという(社会主義じゃなくなってから貧富の差が激しくなっている そうだ)。この話しを聞いてユーディットのアメリカ留学はさぞかし大変だっただろ うと思った。

ヨーロッパどたばた日記

  • 2000.11.11 Saturday
  • 23:20
 by 田村夏樹

11月11日

*カナダ外交官
ブタペストから今度はオーストリアのウイーンに向かう。ユーロパスセーバーという 一種の周遊券を使っての旅である。このパスは1等に乗れるので有り難い。列車の中 まで送ってきてくれたユーディットとジョルトが「すごーいこんなのに乗って行くん だ!」とびっくりしていた。いわゆるコンパートメントという6人用個室形式のやつ だ。
出発間際におじさんが一人乗り込んできた。いかにもエリートという感じだ。結 局ウイーンまでの3時間ずっと話していくことになった。聞いてみるとカナダ政府の オーストリア外交官だった。いろんな話しが出たが噂には聞いていた50万円だせば カナダのグリーンカードが持てるという話し、やはり本当らしい。もちろんいろんな 書類が必要だが。カナダ政府の人間が言うのだからまちがいないだろう。カナダで暮 らしたいと思っている人、トライしてみませんか?

*国境
さてハンガリーからオーストリアに入った所でパスポートを見て回る審査官が来た。 驚いたのはどう見ても軍の人間の様だった事だ。後で外交官に聞いたところ、国境警 備隊だった。マシンガンでもかつぃでればピッタリって感じだった。列車が動き出し て暫くすると、今度は車掌の検札である。チケットとユーロパスを見せたところ、「 このパスではウイーンには行けない」と言う。驚いて「そんなはずはない。ヨーロッ パに強いという、ちゃんとした旅行代理店で、しかもこのチケットは日本から予約し たものでパスにオーストリアが含まれてないはずはない」と主張したのだが車掌は「 いやこのパスにはオーストリアは含まれていない」という。 代理店のミスか車掌の勘違いか判らないが、ここでもめて、今日のウイーンの仕事に 遅れたらなにもならないので、不足分の約1200円を払った。日本に帰ったらすぐ 代理店に文句言おーっと。
しかし車窓から見えるハンガリーとオーストリアの違いには驚いた。国力の違いがこ んなにハッキリと景色として現れるものか。国境を越えたとたん建物がきれいに手入 れされ、道路もよく整備され、ふんいきがなんだか明るくなった様な気がした。でも これはどちらが良い悪いではなくてただ経済的な問題だと思う。ちなみに僕はハンガ リーの方が印象がよかったし、何かしっくりくる感じがした。

*オーストリア・ギグ
ホテルに荷物を置き、歩いて3分ほどの会場に向かった。オーストリア・ラジオ・コンサートホールというから、ハ ンガリーでの会場と似たような所だ。ステージに行くと、ベーゼンドルファー・インペリアルが3台向かい合って置 いてある。なかなか壮観なものだ。今日の主役である祐子グルダさんが「夏樹さん楽器持ってきてないの?ホテル近 いんだから取ってきて一緒に演りましょうよ」と言ってくれるので、お言葉に甘えて急遽Tpも参加する事になった。
1部が祐子グルダ、藤井郷子、ギセルハー・スメカルによるピアノセッション。2部が祐子グルダさんとニコラスと いう、マル・ウオルドロン等と演っているサックスとのデュオ。3部がリフォーム・アート・ユニットと僕が加わっ た全員。この3部が大変だった。リフォーム・アート・ユニットの音楽と藤井、田村の音楽とは相容れないものがあ り、約1時間のステージが非常に長く感じられた。インプロビゼーションをやっているとき、各々勝手な事をやって いるように見えて、実は一つの方向へ向かっているものなんだけど、リフォーム・アート・ユニットの人達はほんと に好き勝手にやってる様な気がした。始めての人と演奏する時、稀にこういう事もある。

ヨーロッパどたばた日記

  • 2000.11.12 Sunday
  • 23:28
 by 田村夏樹

11月12日

*クラブ・リッツ
次の日、日本で知り合いになって今はこちらに戻ってきているエカートさんとランチを食べにいった。クロアチア料 理だったが実にあっさりしていてうまかった。ちなみに僕はいわしのから揚げでした。
エカートさんに面白そうなライブハウスを聞いた所、クラブ・リッツが一番というので早速その夜出かけてみた。ゲ イの店やアダルト・ショップやなんだか怪し気な店が立ち並ぶ、ウイーンにしてみればあまりきれいな所ではないか もしれない場所にあったが、どうも僕達にはこういう所の方がしっくりくる。そのクラブもいい雰囲気でここなら何 か創造的なものが出てきそうな気がした。その日はサックス、ヴォイス、コンピューター2人というバンドが出てい て結構面白かった。

ヨーロッパどたばた日記

  • 2000.11.14 Tuesday
  • 23:29
 by 田村夏樹

11月14日

*LAUDA航空
ウイーンからロンドンまではLAUDA航空を利用したが、気分のいい航空会社だった。スチュワーデスは黒のジー パンに半袖のシャツ(見送り時は黒のジャケットを羽織った)。見た所20歳そこそこで、にこやかにキビキビと動 いていた。なんの気取りもない実に気分のいい会社だった。

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