SELECTED ENTRIES
RECENT COMMENTS
CATEGORIES
ARCHIVES
MOBILE
qrcode
LINKS
PROFILE
OTHERS

02
--
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
--
>>
<<
--

なんでもかんでも

<< パークスロープ | main | 『私のアメリカ その1』 >>
忘れ物
0
     by 田村夏樹

    激しい雨が降りしきるボストンのローガンエアーポートに降り立ったのは、1986年12月24日、クリスマスイブの午後であった。

    ミネアポリスまで向かえに来てくれた藤井さんと、タクシーに乗り、宿泊先であるヘ メンウェイのアパートに向かう。その部屋は藤井さんの友達が住んでいるのだが、帰 国中の又貸し、所謂サブレットというシステムで僕が借りる事になった。 荷物を運び入れると藤井さんは「知り合いのクリスマスパーティーに行くから」と言 って、その部屋から歩いて3分程のアパートへ帰っていった。 キッチンやバスルーム等をチェックし、「ウーン、ボストンに来てしまったナー!」 「今日からここで暮らすのか。」等と思いながら窓から外を眺めていると、いつしか 雨は雪に変わっていた。

    1時間程トランペットを練習し、壁ぎわの椅子で休憩していると、頭の後方から『ト ゥーーン、、、トゥーーン、、、』というまるでギターのハーモニックスの様な、か すかな音が聞こえた。さほど気にせず、又少し練習を続けたが、旅の疲れからかちょ っと眠くなったので先ほどと別の椅子でウトウトとしてしまった。15分程だったと 思うが、フッと目を覚ますと又頭の後方から『トゥーーン、、、トゥーーン、、、』 さすがに今度は「アレッ、なんだろうこの音。」と思って後ろを見たが、あるのは壁 だけ。「もしかしたら暖房のパイプが鳴ってるのかな」と思い、荷物の整理等をして いたが、外もすっかり暗くなった事だし「もう寝てしまおう」とベッドに入った。ア ッというまに眠ってしまったが、今度は真夜中に目が覚めた。またしても『トゥーー ン、、、トゥーーン、、、』が聞こえる。今度はベッドの頭の上で。 「なんなんだこの音は!どうして移動した場所に付いてくるんだ!壁中に暖房パイプ が張り巡らされてる訳じゃあるまいし。なんで俺の頭の上だけ鳴るんだヨーー!」と 思っているとドアの外で誰かがわめいているのが聞こえた。 「アーユーオーケーッ? アーユーオーケーッ?」と怒鳴って隣のあたりのドアをド ンドンドンと叩き、又「*******アーユーオーケーッ?****** *** ****アーユーオーケーッ?******」とわめいているがアメリカに着いたば かりでしかも英語が不得手な僕は、彼女(声の質から想像しておそらく黒人のオバサ ン)が何を言っているのかさっぱり解らなかった。しかしその声の調子からは、なに かただ事ではないものを感じた。 「何を言っているのか解らないのにうかつに出ていけないぞ。」と思ってしばらく様 子を伺っていた。しかしもう15分ぐらい喚き続けているのに誰一人として出てこな い。「このビルには誰も住んでないのか?どうして誰も応答しないんだ?」「何とか しなくては。しかし何を言ってるのかサッパリ解らん」「そうだ!藤井さんに電話し てみよう。あれだけの大声だ、受話器から聞こえるだろう。」

    「モシモシ!」
    「はい、あっ田村さん、どうしました?」
    「ヨカッター居てくれて!イヤーこんな真夜中に申し訳ないけど、さっきからドアの 外で誰か大声で喚いてるんだけど。」
    「うん。聞こえる聞こえる。アーユーオーケー?って言ってるね。」
    「さっきまで何か違う言葉も言ってたんだけど。アッ、声が止まった!」
    「ほんとだ。聞こえなくなった。」
    「緊急事態だったら、警察に連絡したほうがいいんじゃないかと思って、何言ってる のか教えてもらおうとしたんだけど。」
    「そうだったんだー。、、、ネエ受話器の中で何か変な音聞こえない?」
    「ゲッ、こっ、この音だ!!」
    『トゥーーン、、、トゥーーン、、、』
    「何なの?この音。」
    「こっ、この音、夕方から僕が動く所動く所の頭の後ろで鳴るんだヨ。こっ、この音 、人の後ろついて来るんだヨーー!」
    と、言った途端、音の間隔がどんどん短くなった。アッチェレし始めたのだ。
    『トゥーーン、、トゥーーン、トゥーントゥーントゥントゥントゥトゥトゥトゥ』
    ゾゾゾーーーッ!!
    体中鳥肌だらけになった僕は、「ギギッ、ギャアーーーッ!」
    「なっ、何なのよこの音っ!」
    「もっ、もうダメ!こっ、こんなとこ居られない!今すぐそっちへ行く!ヨッ、ヨロ シク!!」
    取るものとりあえず脱兎のごとく部屋を飛び出した僕は一目散に藤井さんのアパート に向かって走りだした。
    シンシンと雪が降り続く、ボストン初日の夜であった。

    後日、日本に帰っているその部屋の持ち主に電話したところ、
    「あっ、やっぱり何かあった?」
    「おいおい、そんな事最初に言ってくれなくちゃ。」
    「イヤー、人が代わったら大丈夫かなと思って。それに本当に出るわけじゃないし。」
    2週間後、彼がその部屋に戻って来たが、アっという間に引っ越してしまった。 彼が話したがらないので、その親友から聞き出したところ、「遂に出た!」そうだ。 その幽霊は女性で以前その部屋に住んでいたらしい。そして何か大事な物を置いたま ま死んだらしい。 話しだけ聞いてれば「何だそれだけか」と思うが、実際に自分が夜一人でいるとき出 てきたら、と考えると慌てて引っ越したのも解る気がする。 その幽霊の忘れ物は、もしかしたら大事にしていた『ギター』だったのでは?

    | エッセイ by 田村夏樹 | 10:45 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









    http://blog.librarecords.com/trackback/25